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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1164号 判決 1955年1月11日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人牧野良三、同大竹武七郎の上告趣意第一点について。

所論各証人に対する検察官の面前調書の証拠調が、これら各証人を尋問した公判期日の後の公判期日で行われたからといって憲法三七条二項の保障する被告人らの反対尋問権を奪ったことにならないことは既に当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである(昭和二四年(つ)九三号同二五年三月六日・刑事判例集四巻三号三〇八頁)。しかも、本件における主要な争点たる金銭供与の趣旨、検察官に対する供述の任意性の有無については、既に先の証人尋問に際し、反対尋問権の行使の機会が与えられているに止まらず、記録に徴すると充分に反対尋問が行われているのである。また証拠調に当って当事者に異議があったからといってその意見を聴いた上で決定をし、適法に証拠調をした以上、証拠調手続が違法となるの理はなく、更に第一審裁判所がこれら証人の再尋問の請求を却下したからといって先に適法になされた証拠調が遡って不適法になる理由もない。所論は採用できない(昭和二七年(あ)六七〇四号同二九年五月一一日第三小法廷判決参照)。

同第二点について。

刑訴三二一条一項二号は、伝聞証拠排斥に関する同三二〇条の例外規定の一つであって、このような供述調書を証拠とする必要性とその証拠について反対尋問を経ないでも充分の信用性ある情況の存在をその理由とするものである。そして証人が検察官の面前調書と異った供述をしたことによりその必要性は充たされるし、また必ずしも外部的な特別の事情でなくても、その供述の内容自体によってそれが信用性ある情況の存在を推知せしめる事由となると解すべきものである。このことは既に当裁判所再三の判例の趣旨とするところであり(昭和二六年(あ)一一一一号同年一一月一五日第一小法廷判決・刑集五巻一二号二三九三頁)、原判決の判断もこれと同趣旨に出るものであるから、原判決には何ら理由の不備又は判断の遺脱なく、所論は理由がない。

同第三点について。

所論は採証法則違反、経験則違反を主張するが、事実審裁判所の裁量に属する証拠の取捨選択を争い事実誤認を主張するに帰する。

同第四点について。

量刑不当を主張するに止まる。また全記録を調べても本件について刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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